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あらためて紹介する必要もないと思うが、Mutsumi Takahashiさんは、モントリオールのローカル・テレビ局、CFCF/CTV (チャンネル12) の“顔”である。週日の正午と午後6時から放送されるニュース番組のアンカー・パーソンとして、1日2回、カメラに向かう。 テレビはあまり見ない人でも、メトロの駅やハイウェイ添いのビルボードに、Bill Haugland氏とともに微笑む彼女の姿を見かけたことはあるだろう。Haugland氏はこれまで25年間、 彼女は16年間にわたって、モントリオールの人々にその日のニュースと、地域に根ざした話題を伝えてきた。 Mutsumi Takahashiという名前が表す通り、彼女は日本人である。正確には、日本に生まれ、数学者である父親に伴って4歳でアメリカへ、6歳でモントリオールに移住した。 「両親と一緒に住んでいる間は、家のなかではいつも日本語だった」という彼女は、「日本語も話せるんだけど」と、自然な日本語で言った。「でも、複雑な話になると、言いたいことがうまく伝えられないので、英語にしましょう」 12時のニュースを見学した後、話を聞いた。 --- 平均的な1日のスケジュールから、お聞かせください。 「朝はだいたいいつも6時半頃に起きて、ワーク・アウトをします。局には9時半から10時の間に入り、10時半までにメイクや髪を整え、それから12時のニュースの準備。午後1時から2時までがランチ・タイムで、その後にはたいてい、インタビューなどの収録があります。2時半から3時の間にメイクを直し、3時には6時のニュースのためのミーティング。3時半に5分間の生放送で、ニュース・アップデイト、5時にもう一度、5分の放送。その合間にインタビューのための資料を読んで、6時前にスタジオに入ります。番組が終わったら、まっすぐ家に帰ります。」 --- とても規則正しい生活ですね。 「そうしなければ、やっていけません。家に帰ると、まず、翌日身につけるものを選んで整えます。きちんとコーディネイトされている必要があるし、けっこう時間もかかりますから。スタイリストはついていません。シンプルな服装が好きですね」 --- 子供の頃、どんな職業につきたいと思っていましたか?
「特に何もありませんでした」 「Nothing. 私は典型的な、ただ楽しければいいっていう子供だったから(笑)。本当に、将来何になりたいとか、そういう考えはまったくなくて、ただ、誰かと楽しく話をしながら時間をすごせればよかったんです。でも、両親は理数系の人たちで、科学でないものを学んでも、教育を受けたことにはならないというような価値観を持っていました。私が覚えているのは、母がよく『いったいどうするの?』と尋ねるたびに、『私は話ができればいいんだ(sit around and talk)』と答えていたことです。母は、人に話をするだけで成り立つ仕事なんてない、ちゃんと何かを学んだり身につけたりしない限りは、いい仕事などできるはずがないと言っていました。で、数年前、母とその話をしたんです。私がいま何をしているか。“座って話をしている”じゃないの、って(笑)」 --- ジャーナリズムに興味を持ったのはなぜですか? 「私はジャーナリズムを学んではいません。文系全般、心理学、社会学、政治学など、全体を広く学んだのですが、それは現在の役にたっています。それから、10年前には大学に戻ってMBAを修得しました。私にとって、ビジネスはよくわからない分野だったのですが、仕事の上で、ビジネス関連の話題は重要な位置を占めるようになっていたので、夜のクラスをとって勉強を始めたんです。マスターをとるのに7年かかりましたね」 「私は、あらゆるものに興味がありますが、ひとつを選んで勉強するほどではないんです。ジャーナリズムのいいところは、ある日は作家にインタビュー、その翌日は政治家に取材、というふうに、幅広い興味を満たしてくれるところですね」 --- 同じジャーナリストでも、出版媒体ではなく、放送を選んだのはなぜですか?
「スペリングが苦手なので(笑)。コンコーディア大学にいたとき、大学のラジオ局で番組を担当しました。新聞にも関わりましたが、ラジオのほうがおもしろかった。多分、すぐに反応が得られる直接的なところが気に入ったのだと思います」
「いいえ。最初のニュースキャストも憶えていません。ただ緊張して、こわくて、終わった後は記憶喪失みたいになっていました」 --- 毎日、一定の状態を高いレベルで保つために、大変な自己コントロールが必要だと思うのですが。 「毎日、心の中では何を考えていようが、同じでなければならないというのは、確かにそうです。でも、それはレストランのウエイトレスでも同じですよね。優秀なウエイトレスは、たとえ本当はつらいときでも、にっこり微笑んで接客をするでしょう。私は自分のやっていることを、他の人にはできない特別なことだとは考えていないし、考えたくありません。精神的な強さは要求されますが、どんな仕事でもそうだと思います」 --- でも、たとえば大きな看板に、自分の顔が印刷されている。そういうのを見ると、やはり特別な感じがしませんか。 「見ません(きっぱり)(笑)」
アンカー・パーソンとして活躍してきた年数にふれたら、「16年?!」と彼女は驚き、「もうそんなになるんですね。おそろしい(笑)」と言った。避けられない現実として「女性にはタイム・リミットがある」と彼女は話す。「年をとった女性がニュースを読むことはないでしょう」。
テレビ・ラジオを問わず、ローカルな放送局に求められるのは、人々が「私たちの放送局」だと感じてくれる親近感、そして信頼感だと彼女は話す。 --- 女性のニュース・キャスターというのは、知性的なイメージと華やかなイメージの両方を持つ職業ですよね。
「ジャーナリズム科の学生がよく訪ねてくるんですが、彼らは、この仕事をもっと華やかなものだとイメージしています。正直言って、こわくなりますね。新聞社に行きたい学生は違いますが、テレビの仕事をしたい学生は、とにかくテレビに出たいんですよ。そして、有名人になって特別扱いされるのが素晴らしいというようなことを考えている。確かにいま、私がどこへ行っても、人々はよくしてくれます。でも、私は自分がテレビに出る前はどうだったかということも覚えています。両親と一緒に出かけたとき、アクセントの強い英語やフランス語を話す彼らに対して、必ずしもやさしい人ばかりではなかったことも含めてね。 --- 強さと謙虚さの両方が必要だ、と。 「でもそれも、どんな仕事にもいえることだと思います。私は、どんな職業に関しても、特別な意味や神秘性のようなものを加えることに抵抗を感じます。たとえば、かつて、大多数の人々は読み書きができなかった頃、本が読める人・書ける人には、特殊な力があるように考えられた。でも、印刷技術が発達し、誰でも読み書きができるようになると、その神秘性は薄れて当たり前のことになった。コンピューターもそうです。テレビには、まだマジカルな印象があって、そこに関わる人々は特別だという風に思われるのかもしれないけれど、私はそれを避けたいですね。誰もがニュースキャスターになれるわけではないのは本当ですが、それは、誰もがエンジニアにはなれないのと同じ。私はただ、実際以上のものを加えたくない。そのままで素晴らしい仕事です」 --- ところで、ご自分のアイデンティティーについて、カナダ人、日本人、モントリオーラー……、どれが最もふさわしいと思われますか?
「わかりませんね。ここにいると、自分は日本人なんだと気づかせてくれることがいろいろあります。日曜日に<宮本>に行って納豆を買うときとかね(笑)。でも、日本に行くと、自分が日本人だとはまったく感じない。日本語を話していても、私がそこの人間でないことは、歩き方ひとつ、体の動きひとつですぐにわかってしまいます。最近興味を持っていることのひとつは、中国などから養子をもらうケースが増えていること。人種の違う親子です。これから先、養子として迎えられた子供たちのアイデンティティーが、どういうふうに築かれるのか、とても興味がありますね。私の場合は、少なくとも言葉や食べものという部分で、日本人のアイデンティティーを持っています。お正月が近づくと、自動的におもちのことを考えるんです。(笑)」
「最も幸せを感じるのは、どんなときですか?」という質問に、彼女は「犬を散歩させているとき」と、即座に答えた。「将来の目標や夢は?」という問いには、現在の状況に満足しているという言葉を返した。 |
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取材・文:関 陽子 |
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