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Le Grill Barroso(ポルトガル料理)
炭火焼らしい香ばしさと、内側に閉じ込められた素材の味がする。(2020/2/15)
レストラン
Ontario通り沿いの窓からひょいと覗くと見えるグリルには、平日の午前中からチキンがずらっと並んで焼かれる様子が見える。ランチには、ポルトガル・チキンを買っていく人、食べに来る人たちが出入りする。
店内の壁の絵。
パック入りのバターと一緒に出てきたので、美味しくない類なのかと思ったら、美味しいパン屋さんで買うルスティックスタイルのパンのように味わいのあるパンだった。細かくカットされている方のパンはおすすめ。
グラス($5〜)でも頼めるビール。私はピッチャー($18)でブロンドを頼む。
私が頼んだ魚介のグリル盛り合わせ($29.95)。確認しにくいが、タコの炭火焼もちゃんと含まれている。エビ、イカは当然美味しいが、イワシの炭火焼がジューシーで和風の美味しさ。
ポルトガル流のタコの炭火焼が食べたかったはずが、土壇場でチキンとポークリブのコンボ($23.95)を注文したフェリックス。チキンの身が引き締まって、香ばしく凝縮された味。ここの厚みのある柔らかいポテトフライも彼のおすすめ。ピリピリソース、ケチャップ、マヨネーズも一緒に出てくる。
店内は清潔で気さくな雰囲気が広がる。油っぽいにおいや煙を感じさせない。
 フェリックスと知り合って2年が経つ。当時、3か月のプロジェクトのため東京にいた私は、モントリオールの友人から「フェリックスって子が日本に行くからよろしくっ」とだけ言い渡されて、どこの誰かも知らない彼と虎ノ門で落ち合うことになった。その日、彼がSaint-Hyacintheに住んでいること、日本に来た理由は自分の音楽活動を売り込むためであることなどバックグラウンドを含め、まともな青年だとわかって一安心した。麻布十番で岩盤ヨガに誘ってみたが、速攻でやんわりと断ってきて、その代わりそのヨガスタジオの近くにある焼き肉店に誘われた。

 全く違う方向性で生きている私たち、カナダに戻ったら会うこともないかもしれないなどと思いながらも、東京ではいろんなものを食べさせた。その延長で、彼がSaint-Hyacintheからモントリオールに出てくるたびに、「よろしくっ」の友人を交えて会食をするサイクルができた。そのフェリックスが今年もモントリオールにやってくる。約束した日は、あいにくかなりの悪天候。車でやってくる彼は来られないかもしれないな、と思っていたら、もうひとりの友人の方からキャンセルの知らせが入った。子供の学校が雪の影響で閉鎖になったから、外出できなくなったという。

 大雪の中わざわざやってきてくれた彼の発言権は自然と高まり、私の提案したレストランは速攻でやんわり却下され、彼のお気に入りの「ポルトガル流のタコ料理」を食べに行くことに決定。向かうはLe Grill Barroso。

 モントリオールにはポルトガルのグリル料理の店はいっぱいある。そして、ポルトガルのグリルと言えば、たいていチキンの丸焼きを意味することがほとんど。その中にあって、Le Grill Barrosoは魚介類のグリルにも真剣に取り組んでいて、しかもチキンもポークリブのグリルのレベルも高いというのが、フェリックスがここを押してきた理由のひとつだ。

 さて、店の入り口のガラス窓から炭火焼のグリルが見え、ここだ!とわかる。店内もサーバーもカジュアルで気が置けない雰囲気。ひどい気候の中、友人と数カ月ぶりに会うのは嬉しく、ビールをごくごく飲む気にもなる。

 私が頼もうとしていたのは、タコのポルトガル・グリル$29.95。でも、フェリックスがイワシのグリルもイケる、イカのグリルも柔らかくてゴムっぽくないよ、などと言うので、魚介類が全部入ったペスカドールというプレートを頼むことにした。

ペスカドール $29.95
ビール1ピッチャー $18

 モントリオールに来たならポルトガルのタコだとあんなに力んでいたのに、私がペスカドールを頼んだせいか作戦を変えてきた。彼が頼んだのは:チキン半身+ポークリブのコンボ $23.95

 ビールをピッチャーで頼んだことだし、前菜のメニューから、ポルトガルのポテトフライでも頼もうか?と聞いてみると、それは頼んだ各料理についてくるから頼まなくていいよ、と言う。これがまた普通のポテトフライと一味違うんだと満面の笑み。

 私のペスカドールが運ばれてくる。タコ、イカ、イワシ、エビの炭火焼の盛り合わせに、ライス、ポテトフライ、一口サイズのrissóis de camarãoが乗っている。サーバーはひとり分だと言ったけれど、これはシェアしても良さそうなサイズだ。

 タコは外は香ばしく焼け、中はふっくら柔らかい。小ぶりで薄い身のイカも、いいサイズにスライスされ、付け合わせのライスやポルトガル流のポテトフライと合う。ソースを絡ませた大き目のエビは、満足感がある。思いがけず嬉しかったのはイワシ。炭火の直火で焼かれただけのシンプルなイワシは、焼き魚が好きな日本人にはたまらない。こういう食べ方だとビールが進む。フェリックスが一味違うと言っていたポテトフライがまた面白い。厚みを持たせ、ポテトチップス状に切られたポテトは、ふんわり柔らかく、好きな方向に思い通りに折れ曲がってくれる。ほぐしたイワシの身やイカのスライスを中に巻き込んで口に運ぶと、また雰囲気の違う食べ物になる。さらに、別に運ばれてきた特製ホットソースをほんのちょっとつけて食べると、これまた違った味が楽しめる。

 フェリックスの肉系グリルには、こんがり焼かれたチキンの半身が食べやすくカットされ、ポークリブ、ポテトフライが盛られている。見た目は地味だけれど、炭火焼らしい香ばしさと、内側に閉じ込められた素材の味がする。他店のポルトガルチキンとどこが違うのか聞いてみると、Le Grill Barrosoは健全な味がするらしい。焼き方によって、余分な脂質がそぎ落とされるせいかもしれない。

 気づいたのは、持ち帰りのお客さんが多いこと。注文して、グリルの焼き手とおしゃべりしながら待つ夫婦や家族。ひとりでやってきて、ビールを飲みながら注文したものが焼き上がるまで待つ男性。ルームメイトと一緒に来た感じのスウェットパンツスタイルの女の子2人組。

 さらに、特筆しておきたいのが、一口サイズのrissóis de camarão。日本人の感覚で説明すると、海老風味の一口サイズのコロッケより品のいいさらっとした揚げ物という感じ。パン粉ではなく卵と小麦粉(またはスターチ系の粉)でコーティングしてフライされている。中身の主要部分はポテトではなく、もっと細やかな舌ざわりの風味のある根菜類が使われているようだ。前菜メニューにもあるので、次回はこれをビールのおつまみにして、メインのグリルが運ばれてくるまで待つのも良さそうだ。

Le Grill Barroso(ポルトガル料理)
1480 Ontario St E
最寄り駅:Papineau


取材・文:稲吉京子