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Planet Zanga Sushi(寿司)
スウェット姿のまま食べ物が口に入ることに支払いをする時代。
(2021/3/1)
レストラン
ビニール袋にはこのパッケージが積み重なって入っている。
北アメリカのSushiは見た目が春らしい。巻き寿司は取り分けるのも汚れず簡単。プラスチック容器も洗いやすくリサイクルしやすい。
PromotionAという盛り合わせパックは、寄せ集め的な要素もあるので、全種類が偶数個ではない。偏りが出るのも冒険っぽい。
Sushiバーガー。焼きおむすび風なご飯の板に挟まれてくると、勝手に期待していただけに、ただの安パンを見たときは残念だった。でも、中身のマグロのたたきとアボカドスライスの味は悪くない。日本人以外は好きなのかも。
 そう親しいわけでもないエミリから電話がある。Sushiを買って来てくれないかと言う。それはいいけど、なんでまた突然?と聞くと、彼女は現在妊娠4カ月。妊婦にありがちな特定の食べ物ラッシュになっている。大事を取って独りで外に出るのは控えたい。彼は夜中まで仕事で帰ってこない。食べたい量はちょっとだけだから、デリバリーサービスは割高になる。そこで年中暇している知り合いに電話をしてみた、ということらしい。

 今までにないタイプのお願い事に、冒険的な気持ちになる。役に立てるのは楽しい。ただ、暇人にも忙しい日がある。仕事相手からは、太字でTask Overdueの通知が届いている。じゃあ、私がデリバリーサービスを使って我が家分を注文するから、そのついでにエミリの分も頼んで届けるっていうのはどう?と提案する。うちから彼女の家まではメトロで一駅だし、それが一番効率が良さそうだった。

 店の比較をしたりメニューをじっくり見ている時間はない。縁と勘だけで、エミリ好みの北アメリカ系Sushi屋さんを選び出す。リトルイタリーより少し南にあるPlanet Zanga Sushi。お店のウェブサイトをチェックして、足切りラインに到達しているかだけはチェック。そのままオンライン注文機能からオーダーすることもできたが、配達圏内なのか、配達料はどのぐらいかかるのか、配達してくれる人へのチップはなどを調べている時間が惜しい。

 その点、デリバリーサービスのプラットフォームからなら、注文、清算、どこで受取りたいか、配達人とのコンタクトあり・なし、配達人へのチップの清算、予想到着時間、配達の車が今どこを走っているかまで、すべて一本化され明瞭だ。アカウントを作り、注文・清算までが6分程度で終わった。到着まで34分とのこと。仕事をしながら車がどの辺りを走っているかちら見し、かなり近づくとスマホのアラームが鳴ってお知らせ。アパートのオートロック機能の煩雑さや犬が吠えたりするのを避けるため、「建物の外に出て待ってるから」というメッセージも注文時に書き込み済み。それらしい車がやって来て、それらしい人が下りてくる。あなたSachinさん?と聞くと、あなたはキョーコだね?やぁやぁ、どーもどーも。彼がバックを開いて、私がビニール袋にはいった注文の品一式を取り上げる。ありがとねー!良い一日を〜!スムーズな受け渡し。早速エミリにはうちから車で届け、おつかい終了。

 妊婦エミリのために頼んだのは、生魚なしのカリフォルニアロール$5.95とアボカドの細巻き$3.50。我が家用には以下を頼んでみた。あまりスクロールしないうちに目についたものを注文。

・Promotion A(34切れ+飲み物2本つき)$26.95
・太巻き Mango(外側:マグロ、サーモン、湯葉 内側:ホタテ、天かす、マンゴ、アボカド)$9.95
・Sushi Burger (マグロのたたき、アボカド、ベイビーリーフ) $6.75

 普段、盛り合わせ的なものはまず頼まないので、Promotion Aに不安を感じながらも、食べてみたらハズレはなかった。にぎり6貫、太巻き6切れ、中巻き(マグロ・アボカド)8切れ、キュウリの細巻き8切れ。飲み物は入れるのを忘れたのか、付いてこなかった。 にぎりに白身が1貫入っていたのは嬉しいが、日本人にはシャリがちょっと大きすぎる。太巻きは、切れによって入っている具のバランスが違うのが楽しい。エビが多い切れ、サーモン中心の切れ、何かよくわからない切れといろいろだ。中巻きも細巻きも癖がない。キュウリの細巻きが意外に心に沁みた。

 そして、期待していたMangoという太巻き。具にはホタテ、マンゴ、アボカド、天かすが入り、海苔の代わりに湯葉とマグロ、サーモンで巻き、5つに切り分けてある。想像していた繊細さはなかったが、みんなが美味しくつまめて、生魚を食べたかった気分が和らぐ。

 最後に、どんなものか見たくて頼んだSushi Burgerは、思っていたものとは大違いだった。バーガーとはいえ、まさかパンでマグロのたたきを挟んで来るとは思ってなかった。マグロのたたきとアボカドのスライスは美味しかったから、それを手巻きのコルネ状にしてくれればよかったかもしれない。

 デリバリー料、配達人へのチップも含め支払い総額は$70ほど。1年前なら、着替えて、出かけて行って、予約なしとわかると嫌なテーブルに案内され、注文して待って、運ばれて、サーバーと表面的なコミュニケーションをして、支払って帰る、という一連の行為に3時間もかけていた。今は、その3時間をセーブし、愛犬を家に独りっきりにすることなく、仕事の傍ら指先ひとつで注文・清算を終え、失望しないワインやビールを合わせ、チップを払いたいと思える人に払い、スウェット姿のまま食べ物が口に入ることに支払いをする時代なんだと実感する。

Planet Zanga Sushi(寿司)
6238 SAINT LAURENT
最寄り駅:Rosemont


取材・文:稲吉京子