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レストラン
こんな箱に入ってくる。なぜかはよくわからないが、いっぱい重なったこの箱がガラス越しに見えたのも、最初に入店を迷った理由のひとつ。
ぎっしり、びっしり入ったギロプレート$21.55。ポテトをどけると、みんなが目当てに来るギロが見えてくる。野菜は新鮮、ポテトはシンプル、ギロは味わい深く、ライスとも合う。
イカリング$16.95。家では絶対作りたくない食べ物は、こういう機会に注文。揚げたてだったらさぞや!と思わす品。
ギロピタ$6.95。ファストフード系の飲食店でよく見かける、シャワルマのラップ=ギロのラップサンドってこと?と昔の同僚に聞くと、隣で話を聞いていたトルコ系移民の第3世代の男の子が、本当はちょっと違うけど、少なくともモントリオールではそうだ、と承認。
注文を終えた人が店内で待っている。絶えず客さんが出入りし、女性の一人客も多い。店のオーナーの写真や、来店した有名人の写真が飾られている壁。
 昔の仕事の同僚だったロシア系移民第3世代の男の子から、スブラキ=ギリシャ料理、だという観念を学んだ。肉を何層にも重ねてゆっくり回転させてあぶり焼きにした肉を、大きなナイフでそぎ落とした薄切り肉ギロ(Gyro)も、ギリシャ料理だ。名前は忘れてしまったが、とにかくよくしゃべる彼は、それがトルコ当たりの料理になると、串刺し料理のスブラキはケバブと呼ばれ、ギロはシャワルマと呼ばれるようになる、ということまで教えてくれた。当時私は、ギリシャ料理というとDuluth通りのレストランLe Jardin de Panosなんかを思い浮かべていたが、モントリオールではギリシャ料理といえば、圧倒的にみんなスブラキやギロを想像するのだという。

 そのスブラキやギロを食べさせる創業47年のお店がVillary地区にあると言う。このSouvlaki Village Grecのことは、ギリシャ系移民第2世代のニックから聞いた。いつ行っても変わらない味で、子供の頃から家族で食べに行った場所だと言う。でも、女の子を連れて行くようなとこじゃないよ、という注釈付き。デートでスブラキを食べるなら、NamurにあるMarathonという店に行くのだそうだ。今は、いろんな飲食店が立ち行かなくなってるけど、閉店してる可能性はないか聞くと、先週家族分のディナーを買いに行ったばかりだから、まだ健在とのこと。

 Villaryのギリシャ系の多い住宅地の中かと思っていたので、歩くために少し遠くに車を止めた。Googleマップにガイドされて歩いていくと、店は意外にもJean-Talon通り。店の前まできて躊躇した。えっここ?という迷いが浮かぶ店構えだったからだ。店の入口のドアを半押ししたものの、入らずにすぐに車まで引き返してきた。ニックのコメントをもう一度反芻して、やっぱり試してみるべきだと思い直し、店に向かう。

 注文/会計のカウンターにはちゃきちゃきしたアジア系の女の子がいた。知ってはいるけれど、何がスペシャルなのか聞いてみると、ギロだと言う。キッチンから熟練風の男性がでてきて、みんなこれを食べに来るんだよ、とゆっくり回りながらあぶり焼きされている大きな肉の塊を指さす。そうか、やっぱりそれなのか。

 それなら、そのギロのプレート$21.55と、ギロピタ(ピタパンでギロや野菜を巻いたラップサンド)$6.95、そしてイカリングのフライ$16.95を頼んでみた。

 家で袋から出す際、それぞれの重さに少し驚く。 ギロのプレートには、サラダ、ポテトフライ、ライス、削ぎ切りされた肉ギロがパンパンに詰まっていた。 まず好感が持てるのは、サラダの新鮮さ。ざく切りしただけの野菜は、ドレッシングと和えずブラックオリーブ、フェタチーズ、レモン、ヨーグルトソースが添えられているだけ。そして、さらっとした明るい色のナチュラルなポテトフライ。そのフライをどけると、クリスピーかつジューシーなギロが一面に現れる。

 ギロのラップサンドは、ワイルドなほどにぎっしり詰まった中身(サラダ、ギロ、ヨーグルトソース)が口の中で美味しいハーモニーに変わる。新鮮さ、ボリュームは言うまでもないが、他店との絶対的な違いはヨーグルトソースの味。通常は添加されたガーリックパウダーの風味とマヨネーズがかった油っぽさが気になるのだが、ここのソースにはそれがない。口の中に半日は残るニンニクのニオイもなかった。ギロのラップサンドはファストフードのイメージが強かったが、今回のギロピタで少し印象が変わった。 イカリングにはケチャップが付いていたが、食べる前に絞るレモンが断然合う。揚げてから20分以上箱の中に入っていたことを考慮にいれると、なかなか悪くない。洗練された美味しさではないが、ハッピーアワーにビールと一緒につまみたい一品。

 昔、トルドー首相が来店したとか、ビル・クリントンさんが食べて行った、という記事や写真が店の壁に張り出されている。有名人が食べに来たから美味しいとは限らないが、30年前に郊外に住まいを購入してVillaryから離れたという人々も、チャンスがあれば立ち寄ってしまう場所だという。「家で家族と食べるならここ」と言ったギリシャ系ニックのコメントも合わせて、47年営業を続け、パンデミックの影響下でも健在でいられる理由がわかった気がした。

Souvlaki Village Grec(ギリシャ料理)
654 Jean-Talon west
最寄り駅:Parc


取材・文:稲吉京子