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Restaurant Tehran(ペルシャ料理)
それよりなにより、玉ねぎの謎が...
(2021/5/15)
レストラン
イラン人男性アリ、イラン人女性アツサの2人が勧めるペルシャ料理店。レストラン営業をしていた時代は、テラス席が好評だったらしい。
かなり床面積のあるレストランは、今ではかなり広いピックアップステーションに。常連客はあらかじめ電話やオンラインで注文しておいて取りに来るだけの人々が多い。
ナスのシチュー。持ち帰りの容器からお皿に移しても地味な見た目だが、味は素晴らしい。滑らかで品がいい。例の玉ねぎの輪切りと合わせて食べてみたが、この組み合わせではないようだ。紫のパウダーも使い方が分からなくて残念。
串焼きチキンと串焼きの牛ひき肉のメインコース。チキンの一切れずつが大きいし、厚みもあるので2人でシェアしてもいいかもしれない。箸で切れる感じの柔らかさ。
ライスに埋もれていた牛ひき肉の串焼きとサフランライスを掘り出した写真。見た目はあまり魅力的ではないが、こちらもふわっと焼き上がっていて、すべての料理が堂々とした正統な美味しさ。
イランのテーブルクロスに料理を並べる。気ままに独りで食べるつもりで用意したが余りそうだ。
 イランからモントリオールにひとりで移住してきたアリ。屋外でサッカーができる季節は、Jeanne-Mance Parkにたまに顔を見せる。チームがあるわけでも、決まったメンバーがいるわけでもないが、人数が揃えばマッチを行うという緩いサッカーの集まりの中では、かなりの年長者だ。おそらく60歳は超えているだろが、子供のような屈託のないオープンな精神で、ランダムな若者たちとサッカーをしにやってくる姿にはインスパイアされる。犬と芝生でゴロゴロするためにやってきた私は、アリがイラン人だとわかると、モントリオールでペルシャ料理を食べるならどこ?と聞いてみた。彼は迷わず2箇所の名前を挙げた。そのうちのひとつ「Tehran」は少々値段設定が高めだが、イラン人女性の友人アツサからも勧められたことがあるレストランだ。Vendome駅から歩ける距離にあるのもいい。

 持ち帰りのみの営業になっているため、比較的大型の店内に入ると、ガランとしたスペースが広がる。始めてきたと告げると、接客慣れした若い男性が、メニューを見せてくれる。あまり知らない分野だから、奇をてらわずメインコースのメニューから素直に王道っぽいものを頼んでみる。

- Jooje Sultani $30
串焼きチキン、串焼き牛ひき肉、焼トマト、サフランライス

- Mirza Ghasemi $19
ナスの煮込み(トマト、卵、ニンニク、ハーブ)

 20分で準備できるというので、Sherbrooke通りを散歩しながら待ち、ピックアップして家に帰る。いつも感じるのが「持ち帰り」の容器に入ると、どうしても料理のある部分が台無しになる。今回は特に、メニューで洗練された盛り付け写真を見ているだけに、家に帰って容器を取り出す際そんな印象があった。ただ。食べてみて印象は変わった。チキンの質自体が良いのは間違いないが、脂分がない部位なのに、ふんわりと柔らかく焼き上げられている。おそらくマリネ液に秘密があるのだろう。嫌みがなく美味しい。牛ひき肉の串焼きのほうは、ライスに埋もれていたのと、チキンの量に圧倒されてその存在に気が付かなかった。きれいな色のサフランライスと一緒に発掘された牛のつくねは、チキンとは全く違う印象の美味しさ。癖もワイルドさもなく、柔らかく上品に仕上がっている。そして、ナスの煮込み。絶対気に入るはずよと言っていたアツサ一押しのペルシャ料理。シチューというと、日本人は汁気の多いスープっぽいものを思い浮かべるが、イランのシチューは煮込まれていてピューレやペーストに近い質感になっている。これは絶品。一緒に煮込まれているはずの全材料は跡形もなく、完全に一体化してとろっとろのまろやかな何かに昇華している。

 ただ謎が残った。同梱されていた小さなビニールに入った生玉ねぎと、紫色のパウダー。玉ねぎは太めに輪切りされたものが2つ。濃いローズのようなパープルとも言える粉末が極小プラスチック容器に入って添えられていた。厚切りの生玉ねぎで、ナスのペーストをすくって食べるのか、もしかしてチキンや牛つくねのグリルを食べながらカリッとかじるとか!?綺麗な色のパウダーは、匂いも味も感じなかったが、ローズを多用するイラン文化だから、バラの花びらなのかも...。いろんなものに、赤紫蘇パウダーのように振りかけてみたが、効果はほとんどわからない。生玉ねぎはどう食べ合わせても刺激が強すぎて、後日、炒め物の具材となった。 この謎をアリを聞いてみたいが、もう何週間もサッカーに顔を見せない。

 Tehranの料理をオーバープライスだという人もいるようだ。持ち帰りの容器にぎゅーっと押し込まれてしまうと、見た目ではオーバープライス感がにじみでてくる。ただ、味や質の視点からすれば高すぎるという印象はしない。それよりなにより、玉ねぎの謎が...。

Restaurant Tehran(ペルシャ料理)
5065 Boulevard de Maisonneuve O
最寄り駅:Vendôme


取材・文:稲吉京子