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Les Affamés(ケベックビストロ)
ケベックらしい目には楽しく、容れ物が大きい!
(2019/9/15)
レストラン
ケベコワオーナーによる現代ケベコワが集まるレストラン。Les affamésとは「お腹ペコペコの人々」といったところか。
平日も週末も、ブランチメニューとランチメニュー、朝ごはんメニューまでが午後まで楽しめる。
「卵農場」というあだ名のケベコワたちに愛される人気メニューのひとつ。いろんな食べ方ができるのが楽しい。
親しみやすい店内の雰囲気。週の後半と週末は店がいっぱいになる。
St-Catherine通りに張り出したテラス席。
 「賄い(まかない)がうまい」とは聞いていた。賄いとは、従業員のために作る食事のことだ。特にフランス人シェフが賄い当番の日が友人のお気に入りだという。

 実際の食事はどうか聞いてみると、現代ケベックの外食産業の傾向を象徴するようなレストランの姿が見えてくる。週の後半から週末にかけては、若いケベコワのお客さんで溢れかえるケベックスタイルのビストロだ。最近は、日本人女性のパティシエがデザートを作っているという噂にも興味をひかれた。あまり便利なアクセスとは言えない場所で、それだけ集客できているとはなかなか。賄いにありつくのは無理そうなので、季節が気持ちいいうちに行ってみることにした。

 Les Affamésは、ここ数年で大変容を遂げているというHochelaga-Maisonneuveの中心地から、すこし南にずれた場所にある。Pie-IX通りとSt-Catherine通りが交わる辺りだ。ただ、St-Catherine通り沿いとはいえ、周辺にメトロの駅はなく、グリーンラインのPie-IX駅からバス139に乗ってSt-Catherine通りまで南下するか、Papineau駅からバス34に乗って東へ東へ移動するしかない。駅から歩けないことはないが、バスに乗った方が賢明な距離だ。 店内は、古い木の床やカウンターの感じをうまく利用して、親しみやすいビストロの雰囲気がある。中途半端な時間に入店したが、けっこうな食事客で埋まっている。近くに大きな会社があるわけでも、政府関係の事務所があるわけでもない。こんなにどこから集まってくるのだろう。車でやってきて店にはいってくる女性たちもいる。店内からはケベックのアクセントしか聞こえない。メニューはもちろんフレンチのみ。

 自然体のサーバーの男性が、今日のメニューの内容を説明してくれる。すぐに決められないぐらいいろいろある。Prise du jour(本日のごはん)を聞いてみると、砂肝のコンフィのようだ。Le p’tit déjeuner(朝ごはん)メニューも頼めるという。初めての客なんだけど、あなたのお勧めは何?と聞くと、黒板のメニューの2番目、「 “Huevos Rancheros”, porc effiloché, oeufs miroir, avocat $18 が僕は好きだ」というので、それを頼むことにした。ほぐしたポークを軽く丸めてグリルしたもの、目玉焼き2つ、細かくシュレッドしたポテトのグリル、アボカドソース、自家製タコスの皮がついてくる。

 いろんな食材と料理法と味が大きなオーブン用の容器に盛られて出てくる。なるほど、ケベックらしい目には楽しく、容れ物が大きい!予想に反して味付けはしつこくなく、ほぐしたポークをちょっとタコスの生地で巻いて食べてみる、ホロホロのベイクドポテトをとろっとした卵の黄身と和えて食べてみる、トマトソースとカリカリのクルトンとアボカドソースをタコス生地に塗りつけて食べてみる。四角のオーブン用容器の中で、自分の好きに組み合わせて遊べるところが楽しい。砂場の泥遊びの感覚。

 店の人気メニューはと聞いてみると、私が頼んだHuevos Rancherosを含め、次のメニューだという。 Crêpe de zucchini, ricotta maison, gravlax, oeufs pochés $17:ズッキーニ、自家製リコッタチーズ、グラヴラックス (スカンジナビアのサーモンマリネ)、ポーチドエッグが乗ったクレープ ''Bisket'' au cheddar, oeufs, confit de canard, bacon à l’érable $16.5:チェダーチーズ、卵焼き、カモのコンフィ、メープルシロップ漬けベーコンをザクザクのビスケット生地のパンで挟んだもの

 それ以外では、季節のプティンは通年、時間帯を選ばずにコンスタントに注文が入るらしい。今日は、すでにロブスターのプティン$26は売り切れだった。 日本人女性が作ったデザートを味わいたいと思ったが、あいにく今日は準備がないとのこと。ケベックらしく、その日その日であるものないものがいろいろあるようだ。週末や夜は、天候が許せばまだまだテラスで食事ができる。

 10年以上前、Hochelaga-Maisonneuveはモントリオールの中でもタフな地区のひとつだと聞いたことがある。この地区で社会福祉士をしていた友人は、心のバランスを崩して病気休暇を取った。そんな厳しさは、レストランの前のバス停で出会った女性と20分ほど立ち話をした限り感じられなかった。もちろん、実際のところはわからないが、通りには気楽な空気が漂っていて、少し開拓してみてもいいかな、と思える午後だった。

Les Affamés(ケベックビストロ)
4137, rue Sainte-Catherine Est
最寄り駅:Pie-IX


取材・文:稲吉京子