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Rien à cacher---CHIC & ÉTHIQUE
モード
オーナーのDanny Lourenço氏
 プラトー地区のSt-Denis通りに新しいブティック、『Rien à cacher』がこの春、オープンした。一見、どこにでもあるようなお店に見えるが、このブティックでは、環境にやさしい、エコロジカルな商品のみを取り扱っている。モノにあふれた今の時代、オーガニックコットン(有機栽培によるコットン)などの天然素材を使った、環境保全をコンセプトにした商品を見かけることが多くなったような気がする。今回は、環境保全とスタイリッシュなデザインをコンセプトにしたブティック、『Rien à cacher』のオーナー、Danny Lourenço氏に話を伺った。

--- ブティックをオープンしたきっかけ

 「今の仕事を始める前は、モントリオールにある小さな運送会社の社長をしていました。でも、会社の雇用体制に満足していなかった上、自分と会社の価値観が合わなくなったため、ちょうど去年の今頃、その会社を辞めました。何かの形で社会に貢献できるような仕事を始めたかったので、去年の夏の数ヶ月間、さまざまな案を考えていました。そんなある日、モントリオールのフリーペーパー、『Mirror』の記事で、低賃金・悪条件の工場を阻止しようとしている団体、『No Sweat』のスニーカーについて知りました。見た目はナイキのコンバースシューズのようですが、健全な労働条件の下で商品を製造しているというのが特徴です。これはおもしろいと思い、さらに同じような分野のリサーチを進めていくうちに、このような倫理的なコンセプトをもつファッションがトレンドであることに気づきました。このコンセプトと僕の価値観がとても近かったためか、いつの間にか個人的な興味が現実的なビジネスプランに発展していました。北米では、モントリオールのファッションはある程度の評価がされていますが、このような倫理的コンセプトをもつファッションはほとんど存在していなく、消費者が商品を買いに行くことのできる場所はありませんでした。マーケティングリサーチをし、SAJEという政府の組織する団体からのサポートに申し込み、ビジネスのプランを立て、店の場所を確保し、多くのデザイナーとのミーティング、商品の購入、店の改装を経て、2006年4月末にブティックをオープンしました。」

--- 『Rien à cacher』の簡単な自己紹介とそのコンセプトについて

 「『Rien à cacher』は、“Ethical Fashion Store(倫理的なテーマをもつ店)”です。店を通じて、モントリオールの消費者に“Ethical Fashion(知的なファッション)”について学ぶ機会を与えることが『Rien à cacher』のテーマです。“Ethical Fashion”とは、労働力が酷使されることなく、フェアトレード製品(*注)など、健全な労働条件で生産されたモノによるファッションを意味します。当店のコンセプトは、まず労働条件の整った環境で人々が働いていること、そして環境保全を考慮した製品を扱うことです。店に置いているほとんどの商品は、リサイクルされた生地、オーガニックコットン、天然ラテックス、オーガニックウール、リサイクルの着物生地などで作られています。また、地元のデザイナーによる商品を優先的に置くことで、モントリオールの産業を活性化することもコンセプトとしてあげられます。数年前は、モントリオールのファッションも大規模なものでしたが、政府がモントリオール以外の製品も受け入れるようになって以来、地元の産業はモントリオールから撤退することも多くなってしまいました。というわけで、『Rien à cacher』では地元の人々をサポートすることにも力を入れています。」

--- 環境保全に関して

 「まず、店のデザインは、モントリオールのエコ・デザイナー、2人にお願いしました。モントリオールは、環境保全の風潮があまり見られないので、できる範囲で環境にやさしいものを使い、店のデザインをしました。たとえば、店の壁を塗ったペンキはリサイクルペンキで、現在、あらゆるところで販売されている特殊ペンキです。値段は、通常のペンキの半額以下で、28色あります。改装などに使われた破棄されるはずの余分なペンキを集めて作られています。また、試着室のカーテンはオーガニックコットンでできています。オーガニックコットンの需要は現在とても多く、注文して当店に届くまでにかなりの時間がかかりました。もちろん、値段は通常のコットンより高いですが、やはり店のコンセプトを考えると、必須のアイテムだと思います。オーガニックコットンや環境にやさしい素材を使うことで、地球を汚染する化学物質の使用を減少することができます。通常のコットンは、地上の約5%の農耕地を使い、世界の約25%の農薬を消費しています。通常のコットンにきれいに色付けするためには、たくさんの農薬を使わなければいけないのですが、オーガニックコットンにはその必要がありません。当店で扱っている商品のひとつに、オーガニックコットンでできた『VEJA』というブラジルのフェアトレード製品のスニーカーがあります。長年、綿栽培に携わっている家族の話によると、オーガニックコットンを栽培するようになってから、家族が農薬による被害を受けなくなったと言っています。通常のコットンからオーガニックコットンの使用に変換することによって、産業に携っている人の生活にこのような大きな影響を与えることは、あまり知られていません。このような観点を消費者に伝えることで、様々な点からファッションを見つめ直したいと思っています。また、『Rien à cacher』の理念のひとつに、無駄を省くということがあります。当初、店の内装をもっと凝ったものにしようとしていましたが、あるとき、どうして今あるものを使わないのだろう、と考え直しました。そこで、店の床は何も張らず、土台のものにサンドペーパーを何度もかけ、ニスを塗っただけにしました。」

--- 『Rien à cacher』のスタイルに関して

 「現代のモノにあふれた社会では、過大な広告により、いつの間にか次から次へと新しいモノを買うことが身についてしまっています。『Rien à cacher』では、消費者のみなさんに商品を購入するとき、責任を持ってその選択をしてもらいたいと考えています。つまり、その製品のつくられた労働条件や素材を考慮し、さらに気に入ったスタイルであるから購入する、という過程をたどっていただきたいのです。一見、どこにでもあるブティックのように見えますが、消費者ひとりひとりが環境保護や社会に貢献していることを感じられ、ほんとうに身につけたいとい思えるモノを提供することにより、購入した一つ一つのモノに愛着が持てるのではないかと思っています。店内では、大きくエコロジーやフェアトレード製品のことを宣伝してはいません。というのも、その部分を大きく宣伝することで、消費者から犬猿されるのでは逆効果になってしまうからです。ただ、店の名前にはある程度、私たちの理念が含まれています。『Rien à cacherNothing to hide 隠すものは何もないという意味)』には、まず健全な労働条件の下で生産された商品しか置いていないため、悪いことは何もしていない、隠すものはない、という意味。そして、身につけている製品を恥じることなく、誇りに思うことができるという意味でのrien à cacher。また、Chic & Ethiqueとタグにあるように、スタイリッシュかつ知的なファッションの両方が味わえるということももうひとつの理念です。その例として、American Apparelというブランドがあります。ここの理念は、スウェットショップ・フリー(搾取向上廃止)の精神とロサンジェルスのダウンタウンにある工場ですべての生産が行われているということです。それプラス、デザインがスタイリッシュであることから、爆発的な人気が出たのだと思います。つまり、今の時代、ある程度の倫理的な理念があり、そしてスタイリッシュであるモノを消費者は求めているのではないかと思います。」

--- 『Rien à cacher』に対する人々の反応

 「お店がオープンして2ヶ月が過ぎますが、今のところ、お客様からの反応はとてもいいように思います。なかには、店の理念を理解しているものの、個人的な買い物をするとなると、大量生産している大手ブランドのものを好むという人もいます。でも、ほとんどの人が店の理念に共感してくれています。また、現在お店に置いているブランド、約10のどれもが同じようにお客様に興味を持っていただいており、どれもが均一的に売れています。つまり、当店に置いている商品がとてもバランスよく選択されているとうことだと思います。」

--- 今後の展開

 「消費者のみなさんに、この知的ファッションのトレンドを浸透することができたら、と思います。オーガニックコットンの価格は通常のものより高いですが、需要が広がれば自然とその価格も下がります。今のところ、お店の宣伝は十分といえるものではありませんが、口コミで人々がお店を訪ねてきます。今後は、店内の商品のそれぞれに製品の説明を付け加えることで、お店にくる消費者のみなさんがそれぞれに環境保全や労働力搾取等について学んでいただけたらと考えています。」

*(注)参考:
フェアトレードとは・・・
フェアトレードが支援するのは、途上国の中でも、更に立場の弱い農村部の女性や小規模農家、都市のスラムに住むような人々です。この様な人々が、物を作る事を通じて、自立を果たす事が出来るよう、現地のNGOと協同組合と連携して、消費者との橋渡しをしています。またどこでどの様に作られた商品かという情報を商品と一緒に伝えます。商品購入者は、商品を買うという行動を通じて、貧困や環境破壊と云った問題の解決に参加出来ます。フェアトレードは本来、農作物を中心に扱っていたのですが、農作物では育てて収穫すれば終わってしまいますが、衣料品であれば綿を育てる人、布に織る人、縫う人と雇用機会が増えるし、技術もその土地に根付くのです。

フェアトレードポリシー/フェアトレード製品とは・・・
途上国の生産者と公平に貿易をする、買う人がよりよい選択を出来るよう情報を提供する、昔からの技術や文化を大切にする、環境に優しい貿易を進める、持続可能な会社の発展を目指す、働く人が組織の決め事や運営に参加する、仕事では性別・人種・民族・文化で差別をしない、経営・会計・生産などの情報を公開する、などの条件があげられています。
(資料元:http://www.rivet-jp.com/store/wear/new/people_tree.html

取材・文:和田 良子


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