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シルク・ドゥ・ソレイユのアーティストスカウト、Yves Sheriff(2005/10/15)
ピープル

Credit: Tomas Muscionico
Costumes: Marie-Chantale Vaillancourt

Credit: Tomas Muscionico
Costumes: Marie-Chantale Vaillancourt
Corteo
Credit: Benoît Aquin
Costumes: Dominique Lemieux
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Costumes: Dominique Lemieux
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Credit: Benoît Aquin
Costumes: Dominique Lemieux
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Credit: Benoît Aquin
Costumes: Dominique Lemieux
 ケベック、モントリオールを拠点とし、世界中で公演を行っているサーカス、シルク・ドゥ・ソレイユ。1984年に20人の大道芸人たちが集結したことから始まったこのサーカスは、現在40カ国から集まった、アーティスト700名を含む3,000人のスタッフを抱える大カンパニーへと成長。大道芸人・サーカス芸術・ダンス・舞台・音楽・歌にいたるすべてを融合させ独自の世界を構築。各作品において歌・音楽はすべてライブ演奏であり、音楽は中心的な存在となっている。
 そのシルク・ドゥ・ソレイユが現在世界各地で公演中の11の作品および新作の出演者を探すため、2005年12月、東京でオーディションを行う。また、東京ディズニーランド内にシルク・ドゥ・ソレイユ専用の常設劇場を開設するプロジェクトが進んでいる。劇場は2008年にオープン予定で、そのためのオリジナルショーを制作中だ。
 東京オーディションを開くにあたってキャスティングデパートメントのアーティストスカウト、イヴ・シェリフ(Yves Sheriff)氏に話を聞いた。


--- アーティストスカウトとは、具体的にどのようなことをするのですか?

 「スカウトは基本的にいつもよりよい才能がないかと探しています。スカウト部署は2つに分かれており、ひとつはアクロバティックなもの、体操、トランポリン、シンクロナイズドスイミングなどです。もうひとつが私のいる、アーティスティックなもので、基本的にダンサー、アクター、道化師、コメディアン、ミュージシャンなどを探しています。
 現在11の作品を世界各地で公演中です。もちろん、時々代役を立てなければいけないことがあり、そういう場合には代役は同程度の能力を持った人でなければいけません。そのために世界中でオーディションを行っています。また、どんどん新しい作品が生まれています。基本的に、年1回アートディレクターに対して、または彼らと一緒になって、新しい道化師、あるいは新しいチーム全体を提案することになっています。そのためにも、新しい才能を探しているのです。もちろん、調査もします。常に、世界中のサーカス芸術に関して何が起こっているかをすべて知るようにしています。ダンスやアクロバティックなことに関しても、常に最新の情報を持っているようにしています。」

 インタビューはシルク・ドゥ・ソレイユ本部内で行われた。
 アーティストが訓練するスタジオがいくつかあり、オーディションに受かったアーティストは、ここで独自の訓練を受ける。
 モントリオールの本部だけで1,600人近くのスタッフが働いており、ひとつの広大な建物内に、ショウで使用される帽子、靴、布を作る部署がある。それぞれがまるで小さな工場のようだ。
 各作品用にオリジナルの帽子を作るため、何百人もいるアーティストひとりひとりの頭の型をとり、すべて保存してある。靴に関してもそうだ。道化師用の、特別にデコレーションされた靴、足の5倍もありそうなものから靴の先が像の牙のように曲がっているもの、すべて、個々の足型にあわせてつくられたオリジナルである。
 型をもっていることで、世界中のどこであろうと、靴に問題が生じたアーティストはメールを一通送るだけでまったく同じ型のぴったりの靴がモントリオールから送られてくる。 ショウで使用されるすべての布もこの建物内でつくられている。もとの布を買ったり、特別注文したあとは、すべてハンドペインティングによってつくられた巨大な布もあるという。

--- 日本の芸術機関とのつながりもあるのですか?

 「日本はもちろん、世界中の機関とのコンタクトのリストがあります。もちろん、私たちにとって、北米、ヨーロッパ、ロシア、中国などでオーディションを行い、新しい能力に出会うのはより簡単です。しかし、日本を含め、優れた才能を持つより多くの国々を開拓しようとしています。日本でオーディションを行うのは初めてのことであり、この半年準備してきました。 」

--- なぜ日本でオーディションを行うことにしたのですか?

 「ひとつは、日本人にも門戸をより広く開放することです。
 もうひとつは、日本のアクロバティックスキル、ダンスはとてもレベルが高いからです。 アクロバティックスキルについて言えば、ご存知のようにシルク・ドゥ・ソレイユはとてもハイレベルで、それがトレードマークにもなっています。もちろん私たちはそのレベルを保つ、もしくはそれ以上のレベルに達することが出来るような訓練をしています。ですから、プロフェッショナルで、オリンピックレベルの競技会で活躍するような選手を求めています。オリンピックや競技会参加はリタイヤしたけれども、まだまだ活躍できる力を持った20代後半、30代のアスリートたちが私たちにとっては一番いいのです。

 その点、オリンピックを見ても、アメリカ合衆国、ロシアなどに混ざり、いつも上位には日本がいます。またとても規律がいいし、(私たちがオリンピックで目にするものよりも)よりよいものを出せることを私たちは知っているからです。

 ダンスについてもそうです。日本のダンスカンパニーはとてもレベルの高いものです。舞踏ダンスなどもよく知られているし、歌舞伎や能なども非常に独自のものであり、とても関心を持っています。武道・武術についても、もっと知りたいと思っています。

 また、日本とシルク・ドゥ・ソレイユとは昔からつながりがあります。日本はアメリカ合衆国に次いで最初に作品「ファシナシオン」(Fascination, 1992年)を受け入れてくれた国です。」

シルク・ドゥ・ソレイユ建物内には歴代公演のポスターが貼ってある。初期の頃のポスターの中には、日本公演「ファシナシオン」のポスターも見られた。

--- 日本でオーディションするにあたり、特に日本の伝統芸能分野からも探しているのでしょうか?

 「どんなものも探しています。芸術的にすべての分野における、あらゆる年齢のアーティストを探しているのです。
 たとえば、新しい作品「カ」()には、北京オペラに似た武道がたくさん出てきます。アーティスト全体の最年少は5歳ですし、最高齢は60代のカップルでダンサーです。そのような人を探すのは簡単ではありません。ミュージシャン、シンガー、ローラーブレイダー、スケートボーダー、ブレイクダンサー、格闘家にも興味を持っていますし、もちろん日本の伝統芸能にも関心があります。

 私たちでさえ、次の新しい作品に何が出てくるかわからないのです。ただ、現時点でいえるのは、次の新しい作品にはブレイクダンサーが活躍します。ブレイクダンサーはすでにどのように演技するか、観客を楽しませるかを知っています。たくさんのトリックを使い、アクロバットによく似ています。さらに彼らがトランポリンの訓練をすれば、ただのダンサーではなくなり、実にさまざまなことができるようになります。

 オーディションのプロセスとしては、まずオーディションでさまざまな課題を出します。その中から選ばれたアスリートたちには、ここシルク・ドゥ・ソレイユに来てもらい、4〜6ヶ月の間、スタジオでトレーニングセッションに参加してもらいます。例えば、オリンピックのためにはどういった訓練をしたらよいかわかっている選手でも、2,000人の観客の前、ステージ上でどのように演技するかを知っているとは限らないからです。そこで、どのように踊り、演技し、どのように自分自身をステージ上で表現するかを学んでもらいます。

 その後、選抜を行い、すでに現在ある作品に参加してもらうこともあれば、そのときすぐに適当な作品がないために一度母国へ帰ってもらい、ちょうどいいポジションができたときに1ヶ月後、あるいは半年後にまた来てもらうこともあります。

 このトレーニングセッションはとてもユニークで、すべての技術を網羅しており、とても大切です。そして、彼らがアスリートでありながらも、どの程度アーティストとしてやっていけるかを知ることが出来るのです。」

--- 現在日本人のアーティストは何人くらいいるのでしょうか?

 「はっきりしたことはわかりませんが、おそらく4人か5人だと思います。「キダム」に一人、バトンに一人、シンクロナイズドスイマーが一人いることは確かです。」

--- 彼らはオーディションにより選ばれたのでしょうか?

 「両方です。競技を見て、こちらからコンタクトを取り始めたケースと、応募してきたケースとがあります。でも、今は常にウェブサイトから年間通していつでもデモビデオをここ、シルク・ドゥ・ソレイユに送ることができます。それをこちらで検討し、これはと思った人については登録し、その人が住んでいる地域に近い場所でオーディションが行われるときは必ず招待して、会える機会を作るようにしています。

 また、今回の東京オーディションは、中国を除いて初のアジアでのオーディションです。中国には中国雑技団があり、国レベルで管理されているので事情が少し異なるのですが、一般オーディションとしてはアジアで初のオーディションになります。 」

--- スタッフ、アーティストたちは40カ国以上から集まっており、話す言語は25種類にものぼるそうですが、シルク・ドゥ・ソレイユ内で話されているメインの言語は何ですか?

 「英語とフランス語ですね。シルク・ドゥ・ソレイユはケベックのカンパニーですし、ほとんどのクリエイターはケベック出身です。ですから、フランス語を話しますし、もちろん、アメリカ合衆国やケベック以外のカナダ出身スタッフは英語のほうをよく話します。でも、シルク・ドゥ・ソレイユのアーティストはモンゴル、フランス、合衆国、オーストラリアなど様々な国からきており、多くのロシア人や中国人がいますから、ロシア語や中国語もここではよく耳にします。
 オーデションに関して言えば、言語について心配することはありません。ショウの中では話すこともありませんし、英語かフランス語でコミュニケーションをとるのに十分であれば採用します。でももし本当にその人が必要で気に入れば、採用します。ショウの最中に話すこともありませんし、どうしても必要な場合には通訳がいます
 もちろん、日本では英語を使うチャンスがなければ最初は壁を破るのが大変でしょう。でも一度口を開いて話し出せば、今はテレビもインターネットもあるし、本当に英語を話せない人を探すほうが難しいと思います。」

 トロント、モントリオール、ニューヨーク、L.A.、ラスベガスでは少なくとも一年に一度はオーディションを行っている。特にミュージシャンやシンガーは多く、ヨーロッパでは、エディンバラ、パリ、バルセロナでもしばしばオーディションを行っているそうだ。

--- 日本の観客は他の地域と比べて違いがありますか?

 「はい、あります。日本の観客は注意深く、見て、聞いてくれます。また感情表現はおとなしめですね。現在、日本独自のものとして、東京ディズニーランドとのプロジェクトが進行中です。」

--- 非常に楽しみな計画ですが、どのようになるのでしょう。

 「また何も具体的なことは始まっていないので、なんともいえません(笑)。でもとてもユニークで素晴らしいものになることは確かです。
 これはツアーではなく、常設のショウになります。だから、より実験的なことができます。他のツアーのショウは常に移動することを考えなければいけないのでどうしてもできることに限界がありますが、常設のショウにはより多くの可能性があるのです。
 すべての作品はサーカスに違いはありませんが、いつも前回よりもワンステップ上のものを目指し作品作りをしています。
 シルク・ドゥ・ソレイユはインターナショナルな団体ですから、もちろん、全てが日本人になることはありませんが、このディズニーランドのプロジェクトのためにも、日本でのオーディションを楽しみにしています。

 デモを送りたい人は誰でも、ウェブサイトに情報がありますからそれを参照して送ってください。いつでも歓迎です。ダンサーやアクロバティックアスリートだけでなく、ミュージシャンやシンガー、道化師など、私たちの知らないものはなんでも歓迎です。でも動物以外にしてくださいね(笑)。」

 生まれは南米だが、小さいころにモントリオールに移り、モントリオールは彼の人生であるというイヴ氏。18歳から芸術関連の仕事に就き、シルク・ドゥ・ソレイユで働き始めてからは2年になるが、いったん働き始めるとシルク・ドゥ・ソレイユの仕事はとても忙しく、やることがたくさんあったので、とても長く感じるという。

--- モントリオールについてどう思いますか?

 「素晴らしい都市です。その理由の一つは、文化的なイベントが年中通してあることです。ほぼ毎晩あります。冬、秋、春は劇場の時期と呼んでいます。フリーペーパーに載っているショウは数えきれないほどあります。それに、理解しやすい都市です。トロントほどお金がかからず、ニューヨークほど怖くもなく(笑)、常に二つの言語が話されているし、アーティストにとってはアーティストとしてスタートしやすい都市だと思います。
 それがモントリオールの素晴らしいところです。」

 そんなモントリオールを拠点に次々と新しい作品を生み出し続けるシルク・ドゥ・ソレイユ。 建物の敷地内には野菜を栽培する畑があり、晴れた日には緑の中、カナダのリゾート、ムスコカ湖畔で愛されているすわり心地抜群のムスコカチェアーでお昼を食べる。そんな環境で過ごすスタッフ、訓練を続けるアーティストたちは、これからも世界中で今までにない新しい形で人々に夢を与え続けるに違いない。

取材・文:後藤さおり


ウェブサイト:www.cirquedusoleil.com