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ヴィンテージ加工のメンズTシャツを中心にコレクションを展開している、Dom Rebel Threads氏とJustin Svatina(2008/11/1)
ピープル
 ドム・レベル(Dom Rebel Threads)は、2003年、ジャスティン・スヴァティナ(Justin Svatina)とDon Nguyen(ドン・ヌグィェン)によって設立されたインディペンデント・レーベル。ヴィンテージ加工のメンズTシャツを中心に、レディース、帽子などのコレクションを展開している。
 Tシャツそのものはアメリカ製だが、デザイン、スクリーン・プリント、ダメージ加工などのすべては、モントリオールのアトリエで、1枚ずつ手作業で行われている。たとえば、ハイエンドのスワロフスキー・コレクションは、特殊なペイントを使って手描きした図柄に、何百個ものクリスタルを丁寧にセットした作品。カナダでは、Holt Renfrewなどの高級店でのみ扱っている。
 デザインを担当するジャスティンは、メカニカル・エンジニアリングを学んでいた20歳のとき、自分が着たいTシャツを作り始めた。翌年、ビジネス担当としてドンが加わり、Dom Rebelは本格的に活動を開始。自宅の地下室で20枚のTシャツを仕上げた「最初のシーズン」から5年後の現在、彼らはモントリオールにオフィスとショールーム、そして作業のための広いアトリエを持ち、1シーズン約5万枚のTシャツを、世界25カ国に輸出している。
 ジャスティンとドンに話を聞いた。

--- Dom Rebelは、この5年間で急成長したわけですが、5年を振り返ってどう感じますか?

 Justin(以下J)「本当に何もないところから、ロケットが飛ぶようなスピードで成長してきました。そのスピードのために辛い思いもかなりしたけど、夢が叶ったという感じです。失敗から学ぶことの繰り返しでしたね」

 Don(以下D)「ふたりとも、まったくファッションとは関係のないフィールドで学んでいたし、この分野のことを教えてくれるメンターもいなかったので、最初の3年から3年半くらいは、試行錯誤の連続でした」

--- 辛い経験というと、たとえばどんな?

 J「20枚のTシャツを自分の手で作るところから始めて、いきなり千枚の注文が来たときに、すべて手作業でやるというのがどういうことかに改めて気づいたりとか……」

 D「注文に合わせること、納期、輸出に関する知識などは特に、急いで学ぶ必要がありました。新たに覚えなければならないことばかり。カナダからアメリカに進出するだけでも大変な部分があったし、本当に毎日が勉強でした。それぞれの国のマーケットに合わせて、ブランディングの方法を変える難しさもあるし。でも、大変だった分、強くなりました」

 J「モントリオールとかカナダというのは、世界的に見て、衣類を扱う産業が進んでいるところだとは認識されていません。カナダのなかではモントリオールがその中心だけど、衣類の製造というビジネスそのものが衰退している。僕らは、LAや中国に材料や人手を求めるのではなく、モントリオールで作るということにこだわったので、アトリエの場所からインクに至るまで、何もかも一から始める必要がありました」

--- 最初に作ったTシャツはどんなものでしたか?

 J「なんでもない白と黒のTシャツを買って、元のTシャツの痕跡がほとんど残らないように手を加えました。可能な限り、めちゃくちゃにしたいと思って(笑)。サンドペーパーでこすり、ガレージにあった化学薬品を使って生地を痛め、シルク・スクリーンをやっている友達がいたので、彼にロゴをプリントしてもらったうえで、穴をあけたり、ステッチを施したり。その頃は、まだ誰もそんなことはしていなかったというか、少なくともそんなシャツは市場には出回っていなかった。いま見ればアグリーかもしれないけど、当時はかなり斬新だったはずです」

 D「そのシャツは、実は僕が持ってる。記念品として、クロゼットの中に」

--- 額に入れて飾らないと。

 D「いや、本当にそうしようと思ってますよ(笑)」

 Dom Rebelは、アート・ピースとしてのTシャツを生産するにあたって、人の手でひとつひとつを仕上げることと、モントリオールという場所ですべてをコントロールすることにこだわった。ひとつの店に、同じ商品(それも微妙に違う)を5点以上は置かない。売り切れた商品の追加注文は受けない。(ほしいものが買えなかった人は、次回入荷時に優先される)、同じ地域に何軒もの取り扱い店を設けないなど、ビジネス戦略も徹底している。

--- “Liberty of thought, Freedom of mind”(思想の自由、心の解放)をコンセプトとして掲げる一方で、しっかりしたビジネスを実践している、そのバランスがおもしろいですね。奔放な発想やアーティスティックな表現と、成功するビジネス戦略の両立。

 J「ビジネスを立ち上げ、成功させるためには、アーティスティックなだけではいられません。僕らは、ブランドをある程度コマーシャルにしたいとは思ったけれど、一方、完全に商業主義的な方向に進むことはできないとわかっていました。会社の魂(soul)は、アーティスティックなものとして維持する必要があったからです。表現の自由、自由な思考……、世界がどういう状況になろうと、それがアフリカであれアジアであれ、みんなが何かを考えたり表現したりするのは自由なんだよということを、伝えていきたいと思っています」

 D「企業の論理ではあり得ないことを、通常のビジネスでは考えられないやり方でやっていきたい。でも、やっぱりビジネスであることには変わりはないし、メッセージを伝えながらも成長して行かなければ、企業としては成り立たない。ただ楽しくてカッコいいことをやって、業界の常識を変えようとしても、数年しかそれが続かなければ、あまり意味はないと思います」

 J「ビジネスとして始める以上、利益を得ようとするわけだけど、僕らは、できるだけ多く儲けようとは考えたことがありません。やりたいことを、これからもずっと続けていくための収入は必要だけど、金銭的な収益そのものを、目的として考えたことはない。だから、僕らの企業的な成長はスローだし、ひとつひとつのステップに慎重に取り組むし、ときには、他の人たちに首を傾げられたり、Stupidだと思われたりするようなステップも踏む。ビジネス的にはね。でも、僕らは常に前を向いて、先に進んでいるという自負があります。そして、これから10年先、20年先になっても楽しみながら、同時に革新的でいたいと思っています」

--- デザインのコンセプトは、どんなところから得ているのでしょう?

 J「音楽を聞いたり、旅行をしたり。ファッションそのものにインスパイアされることは少なくて、カルチャー全般からですね。たとえば、ロサンゼルスやロンドンのストリート・カルチャー。シーズンごとのコンセプトを決めた後、ひとつひとつのデザインをつめていきます。
ときには、ちょっと攻撃的になったり、混乱する場合もありますが、どんなアイデアでも、恐れることなく形にするという姿勢ですね」

 D「攻撃的すぎない限りは(笑)だね」

 J「僕は、アート・ギャラリーにもよく行くし、いろんな分野のアーティストがそれぞれどんな活動をしているか、興味を持って見ています。特に色。ファッションの世界ではあまり使われない面白い色が、他ではたくさん使われていたりもするから。でも、いちばんは音楽です。音楽がいつもトップです」

--- どういう音楽が好きなの?

 「カントリー以外なら、何でも。カントリーを侮辱するつもりはないんだけど。(笑)ビートルズやストーンズ、レッド・ツェッペリンみたいな古いロックも聴くし、エレクトロ・パンクも好きだし」

 D「このオフィスで1日過ごしたら、かかっている音楽の幅広さに驚きますよ」

--- ところで、Dom Rebelの製品には、Made in Montrealという表示がありますよね。どんな気持ちで、モントリオール発にこだわっているのでしょう?

 J「ローカルなプロダクトだということを知らせたかったということと、僕たちはカナダのブランドなんだということを強調したかったというのが、最初にありました。そして、それが付加価値になればと考えました。たとえば、どこかの店で誰かが僕らのTシャツにたまたまふれたとき「モントリオールで、手作業で仕上げられたのなら、多少高くても買おうかな」と思ってくれるような商品になればいいなと。そんなこと、気にしない人はまったく気にもしないし、違いに気づくこともないだろうけど、気にする人には、それがひとつの価値基準になればと思っています」

 D「他のブランドとの差別化を図りたいという意図ももちろんあるけど、モントリオールは僕らが生まれ育った街だし、僕とジャスティンが違うバックグラウンドを持っていることもそうだけど、異文化が混合/共存している。モントリオールという街は、僕らがやろうとしていることを、見事に表してくれてもいます。Dom Rebelのブランディングに関連して、モントリオールもブランド化したい部分は確かにありますね。僕らは、そこから来たんですから。モントリオールがどこにあるかも知らない人たちが、仕事で出会う人たちの中にもたくさんいるし、カナダだということをやっとわかってもらえたかと思ったら、「ああ、トロント?」「いいえ、モントリオールです」なんていう場面があります。(笑)でも、そんな状況を楽しんでいるようなところもあって。」

 J「Made in Canadaではなく、あくまでもMade in Montreal。インディペンデントで個性的な人が多い、このクリエイティブな街にいられてラッキーだと思っています」

--- スワロフスキーのクリスタルをTシャツにつけるアイデアについて聞かせてください。

 「もともとは、アーティストやミュージシャンなど著名人(セレブ)のために作っていました。メンズTシャツにクリスタルというのは女っぽすぎるんじゃないか?という不安が当初はありましたが、ジーンズにクリスタルがセットされているようなものはすでにあったし、Tシャツにつけてもいいんじゃないか?と。
で、セレブたちが気に入ってくれた結果、あちこちから問い合わせがあって作るようになりました。でも、いまでも数はかなり限られています」

--- 先日、Sir.エルトン・ジョンがモントリオールのHOLT RENFREWで何着かお買い上げになったそうですね?

 「そうそう(笑)。自分の着るものによって主張したいという幅広い層が僕らのクライエントです。どこで何をしていようが、どれほど有名であろうが関係ない。僕らは、受け手が誰であろうと、ある特別な「感じ」を与えたいと思っています。その場で買ってもらえなくても、その「感じ」を伝えることができたら……。それこそが、創り上げるのが最も難しい「何か」ですよね」

--- Tシャツの過激な(?)イメージに反して、在庫として残った製品をチャリティーに寄付するなど、社会的なバランス感覚も素晴らしいなと思います。

 「プリントの質に十分満足できなかったり、色が微妙に違ったりして、基準に合格しなかった製品やサンプルなどを、シーズンの終わりにまとめて送っています。去年はベトナムに送りました。僕自身、ベトナムにルーツがあることと、もともと貧困に悩まされているうえ、去年は洪水の被害があった。特に孤児の多い地域があることもわかったので、そういうところへ届けるようにしました」

 J「マーケットに流すわけにはいかない製品を役立てる方法はないかと考えてしたことだけど、その反響は本当にすごかった。まさに、Win-Win Situationです

--- すでに、夢を叶えた感がありますが、今後の目標、夢について聞かせてください。

 J「やりたいことは、たくさんあります。具体的に何かというのは、シークレットなので話せないけど(笑)、これまでの5年間で土台を築くことができたので、今後はもっとグローバルなブランドにしていきたい。カナダにいながら、このまま規模を拡大していきたい。ブランドの背景にあるメッセージと革新的なアイデアを、世界の舞台に立たせたい。じゃあ、どうやってそれを実現するか? というのは例の秘密だけど、とにかく今は、あるレベルに達することができたので、ちょっとクレイジーなことをやってみたいと企んでいます」

「企業としての利益を追求するのではなく、ファッション業界にインパクトを与えていきたい」と、彼らは話す。「カルチャーを変えることはできなくても、影響を与えることはできると思う」。
インタビューが行われたテーブルの端には、“Born in Montreal”と描かれた帽子が置かれていた。前回、ここを訪れたときには“Born in 1982”という文字もあざやかな、帽子に魅せられたことを思い出す。モントリオールを拠点とすることにこだわる彼らの、今後のグローバルな活動に興味はつきない。

インタビュー・文:關 陽子