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特別編 ー 第39回モントリオール世界映画祭招待作品『合葬』の小林達夫監督と、主演の瀬戸康史さん (2015/10/1)
ピープル
(c)2015 杉浦日向子・MS.HS/「合葬」製作委員会
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 39回目の幕を閉じ、40周年の節目に向けて動き始めた「モントリオール世界映画祭」。今年は85ヵ国から450作品が出品・上映され、日本作品は合計21を数えた。「ワールド・コンペティション」には、小林達夫監督の『合葬』、初監督作品限定の「ファーストフィルム・ワールド・コンペティション」には、『かぐらめ』(監督(以下同):奥秋泰男)、『ディアー・ディアー』(菊池健夫)、『ねぼけ』(壱岐紀仁)、『星ヶ丘ワンダーランド』(柳沢 翔)が出品し、それぞれ好評を得た。

 今回、日本の映画が賞を受けることはなかった。けれど、筆者は「残念」という言葉を使いたくない。開催中、監督たちが意見を交換し、映画へのパッションを分かち合う姿を何度か目にして、今後の日本映画への期待のほうが大きくなってしまったからだ。

 『合葬』は、幕末という混乱に翻弄される若者たちを描いた「現代の時代劇」。「彰義隊」の隊士3名を中心に、 「激動の時代」をくぐり抜ける人々の姿を、これまでとは違う視点でとらえ、切り取り、提示している。原作は、80年代に江戸ブームを起こした漫画家、杉浦日向子の同名作品。最後の闘いにひとりは志願し、ひとりは流され、最後のひとりは巻き込まれてゆく…。それぞれの葛藤を、柳楽優弥、瀬戸康史、岡山天音(あまね)が見事に演じた。

小林達夫監督と、主演の瀬戸康史さんにお話を伺った。

--- 監督として初の劇場用作品で、海外の映画祭に出品。モントリオールに来られて、いかがですか?

 小林「もちろんうれしいですし、光栄ですが、今回は僕の初監督作品というよりも、若手とベテランが集まったチームとしての結果だと思っています」

瀬戸「海外の映画祭は初めてなので素直にうれしいなあと思う部分と、時代劇がこういう形で皆さんに観てもらえること、そこに参加できているのは幸せだなあと思う気持ちがあります」

--- 日本の時代劇は、海外ではエキゾティックなものとして興味を持たれやすい一方、歴史や文化についての知識がなければわかりにくいというリスクがあるように思います。今回、そのあたりは意識されましたか?

 小林「海外の映画祭で日本の独自性を表すという意味では、確かに(時代劇には)それを出しやすい部分はあると思います。ただ、時代劇が時代劇に見えるクオリティーに達するには、時間もお金もかかる。興味を持っていただけける反面、作る側にとってのハードルは高いと思うし、今回は<松竹撮影所>という時代劇を長年作り続けている場所だったからこそ、成し得ることができました。歴史的な背景等の知識がなくても通じるように…ということは、自分たちなりに考えました。キャラクターの面白さやストーリーそのものを観ていただけたら、ありがたいかな」

 瀬戸「記者会見で外国の方に質問されたとき、日本人同士ならニュアンスで伝わることが、やはり伝わりにくいんだなということが初めてわかりました。『合葬』は名もない若者たちの話で、僕が演じた柾之助は武士っぽくない役で、最初は自分でも異質だと感じましたが、よくよく考えてみればそういう人もいたんだろうなと思うし、悩むとか迷うとかっていうのは、国籍や年齢に関係なくみんなが通る道。だから、そこは共通して伝わるものなんじゃないかなあ、とは思っています」

--- 海外の人々になじみのある時代劇では、「武士道」の精神がストイックに描かれたり、激しいアクションが繰り広げられたり、サムライは心身共に「強い」イメージですよね。でも、サムライの中にも「弱い」人はいただろうし、江戸の人々が皆、維新に向けての変化を歓迎していたはずもない。『合葬』を観て、そのことにはっと気づかされました。

 瀬戸「柳楽優弥さんが演じた極(きわむ)が、皆が思うところの”The SAMURAI” で、自分の志にまっすぐに生きている人物。僕が演じた柾之助(まさのすけ)は、自分の居場所を探しながら、日々迷い、悩み、現代人にいちばん近い考えを持っている人物だと思います」

--- 監督は記者会見で、「若者たちが知らない間に戦争に巻き込まれるという構図は、どの国でもどの時代にも共通するテーマ」だとおっしゃいました。確かに普遍的なテーマではあるのですが、私は今の日本の状況と重なる感じを強く受けました。

 小林「この作品を作ろうと決めたのは2年前で、撮影は1年前。自分たちの主張がどうこうというより、映画の世界が時代に似ていったのか、時代を映したのか……。それは、観た人のとらえ方にゆだねたいところではありますね。ただ、もし本当に、そういう意味で<今の映画>になっているとしたら、うれしいことだと思います。

 小林「いちばん最初に僕が瀬戸君とお話ししたときに、『時代劇って言っても現代の話ですよね』って言っていただいたのは、すごく伝わってるなと思ってうれしかった」

 瀬戸「それは、柾之助っていう人物を見たときですよね。ハデなアクションシーンがあるわけでもないし、いろんな部分で<いま>というものを感じたというのはありますね」

--- キャスティングについて。

 小林「メインの3人に関しては、この映画の中でしかみられない3人の組み合わせにしたいと考えました。3人で並んだときのたたずまいや空気感が、その映画固有のものであってほしい、と。プロデューサーや脚本の渡辺あやさんと話し合い、時間をかけてアイデアを出し合いました」

 瀬戸「柳楽君と天音君は、もともと彼らが持っているものと役がとても近いなと思いましたね。なので、俺だけふわふわしてるけどいいのかなぁ、と思ってました。僕は、撮影に入って役をやるときに、考えなくてもいいことまでいろいろ考えすぎて空回っちゃう方なんですけど、あのふたりは本当にまっすぐに、それこそ武士のように突き進んでいくんですよ。その姿が役者としてうらやましかったですね」

--- 考えなくてもいいようなことっていうのは、たとえば?

 瀬戸「カメラがこう向いてるならこういう風に動いた方がいいのかな、とか。多分、いらないことなんでしょうけど」

 小林「でも、出来上がった絵は、瀬戸君のていねいな芝居・的確な演技に助けられているところがあるので、それは必要。スクリーンサイズで観て初めて”ああ、こういう表情をしてたんだ”とか、”ちょっとこっち側にいた”みたいなことに気づいて、それがあらためて効いてきたりとか……。だから、考えてもらって良かった。(笑)」

--- 役になりきって自然に動くタイプの役者さんと、テクニックを活かして演じるタイプの役者さんに大きく分けられるとしたら、瀬戸さんは後者ということでしょうか。

 小林「テクニシャン。現場では、そんなそぶりは見せないですけどね。で、岡山天音君は前者。入り込みすぎて、壁を壊したりしてましたね。(笑)」
瀬戸「そういう人、すごく憧れる(笑)」

---  「若手とベテランのチーム」についてですが、照明の高屋 齋(ひとし)さんは北野武監督の全作品や、2009年のモントリオール世界映画祭でグランプリを受賞した『おくりびと』にも携わった方。美術の馬場正男さんは、黒澤明監督『羅生門』(1950)の時代から、88歳のいまも活躍中。映画製作の方法はこの数十年で大きく変わりましたが、大ベテランとの現場で学んだことは?

 小林「高屋さんの場合は、僕がやりたくても納得してもらえなかったことや、やらない方がいいと言われたことが、後になって考えると全部その通りにあたっていた。背中を押してもらったようなところがあります。今回は、役者さんにもベテランの方がいらっしゃるんですけど、皆さん、こだわりをもちながらも柔軟。今の時代の技術、今の時代の演技を、日々磨かれている方々ばかりでした」

 瀬戸「僕は10代のときに『仮面ライダー』をやってまして、そのとき、70歳ぐらいのカメラマンさんと一緒だった。その方はもう引退されていると思うんですけど、僕も背中を押されましたね。まだ10代で芝居もまだまだなのに、僕のお芝居をちゃんと観てくれようとする姿勢がすごくうれしかった。昔からやってらっしゃる方って、何か“芯”のような部分を年齢と関係なく見てくださる。それが、すごくうれしかったです。今回は、監督もいろんな闘いはあったと思うんですけど、柳楽くん、天音くんと3人で飲んだときに、『俺たちは監督の撮りたいものを目指そう』と誓いました」

--- 完成形のイメージがあってそれに近づけていくのでしょうか、作るうちに変わっていくのでしょうか?

 小林「完成形のイメージはあまりないですね。絶対に撮りたいものと、絶対に撮れないものははっきり分かれているので、そういう意味でのイメージはあります」

--- 演じる側は? 台本を読んで、完成した作品のイメージは浮かびましたか?

 瀬戸「今回は浮かばなかったですね。だから、楽しみでした。ドラマとかの場合は、こういう風に撮れているんだろうなというのが浮かぶんですけど、今回は本当にぼやーっとしか自分の頭の中にはなくて。原作にはちょっとおどろおどろしいというか、不気味な感じがあるんですけど、そういうはっきりしないものを表現するのは難しいし、いろんな表現のしかたがあると思っていたので、試写を見たときは、映像でこんな風に表現できるんだなあ、すごいなあ、という印象でした」

--- デビュー10周年だそうですね。

 瀬戸「いろんな仕事に関わらせていただいて、あっと言う間に10周年。こうやって監督とお話しさせてもらったり、プロデューサーやスタッフさんとお話しするようになったのはここ3、4年なので、もっと前からそういう交流をしとけば良かったなと思っています。人と人とがつながっていくことには何かがあるし、話しやすく演じやすい現場を作るのは、自分なんだろうな。これからは役から離れたところで、そういうことも大事にしていきたいと思っています」

--- 今後、演じてみたい役はありますか?

 瀬戸「簡単に言うと、悪役をやりたいですね。いままでわりと好青年が多かったので、嫌われたいです(笑)」

--- これから『合葬』を観る人たちを含め、読者にメッセージをお願いします。

 小林「2015年に作られたひとつの創作物として、観ていただきたいです」

 瀬戸「同世代とか、僕より若い人たちにも伝わるような作品ができたんじゃないかなと思います。『合葬』で柾之助を演じる前は、迷ったり悩んだりするのはネガティブなことだと思ってたんですけど、そういうつらいことを経験して人は成長したり、逆に、そうしないと成長しないのかもしれない。いまは、嫌なことがあったらすぐに別の何かを探す人が多いような気がするんですけど、そういう辛い時間をこそ大切にしてほしいし、僕自身も大切にしたいなあと思いました」

--- もし、あの時代に生きていたら、どんな若者だったと思いますか?

 瀬戸「僕は時代に流されるタイプなので、どーんと行っちゃうと思います。(笑)」



映画の予告編をあらためて見た。
「君たちの一途さとどうしようもなさが、美しくて、ばかばかしくて」
というナレーションが、心に響いた。

インタビュー・文:關 陽子

作品名:『合葬』
スタッフ・キャスト
出演:柳楽優弥、瀬戸康史、岡山天音、門脇麦、桜井美南 / オダギリジョー
※柳楽優弥、瀬戸康史 W主演
配給:松竹メディア事業部
上映時間:87分